中国商標法の下では、公衆に広く知られた外国の地理的名称は商標として登録できないとされています(中国商標法第10条第2項)。「公衆」とは一般的な中国国民を指しますので、一般的な中国国民にまで認知されていない日本の地名は商標登録を受けることができます。日本でいくら有名な地名であっても、中国の国民一般にまで知られていない地名であれば、商標登録されるリスクは高いといえます。
また、「その地理的名称が別の意味合いを有し、又は団体商標・証明商標の組成部分となっている場合を除く。」という除外規定があります(第10条第2項但し書き)。これにより、商標として出願された地名を構成する漢字から、日本の地名以外にも別の意味を自然に理解できる場合には商標として登録することができます。更に、団体商標・証明商標の構成要素の一部として地名が含まれている場合にも登録することができます。
商標の登録は、商標を使用する商品又はサービスを指定した上で付与されます。日本の地名が商標として他人により登録された場合、指定された商品又はサービスについて、商標権者以外の者がその商標を無断で使用することを法的に禁止することができます。したがって、輸出する商品について既に地名が商標登録されていた場合、商品の包装やカタログ等にその地名を目立つように表示すれば他人の商標権を侵害するおそれがあります。商標権者からは使用の中止を求められ、過去の販売に対して損害賠償を請求されるリスクがあります。このため、商標権者の承諾無しで地名を使用することにはビジネス上多大なリスクを伴います。
どうしても地名を表示したい場合は、商標権侵害の追及を回避するために、地名部分を特に強調・装飾することなく、「日本国**産」といった純粋に原産地を説明するだけの表示にとどめるなどの予防措置が必要になります。
まず、「地理的表示」は「地理的名称」とは明確に区別されています。「地理的名称」は一般的な地名ということになりますが、その中でも「地理的表示」は、ある商品が特定の地域で生産され、商品と原産地との間に一定の因果関係が存在することを示すものです。
中国商標法第16条において、「地理的表示とは、ある商品がある地域に由来することを示し、当該商品の特定の品質、信用、評判、又はその他の特徴が、主に当該地域の自然的要因若しくは人文的要因により決定される標章をいう。」と定められています。これはTRIPS協定における地理的表示の概念に対応しています。この規定により、出願された商標の構成に商品の地理的表示が含まれる場合、その商品が当該表示を示す場所に由来せず、公衆を誤認させる場合はその出願は登録を拒絶されます。このように「地理的表示」に該当する商標であれば、その産地に関係の無い商品について第三者が商標登録を取得することはできません。
商標法以外にも、「地理的表示製品保護規定」(国家品質検査総局)、「農産物地理的表示管理規則」(農業部)といった法規により保護されています。
例えば、日本国内の団体が中国において地理的表示をもって団体商標又は証明商標登録の出願をする場合には、 出願人はその名義で当該地理的表示が日本において法的に保護されている旨の証明書を提出しなければなりません。中国商標局に確認したところ、地域団体商標の登録証に、当該商標が「地理的表示」である旨が明記されていればその登録証の提出で足りるとのことでしたが、日本の地域団体商標の登録証には「地理的表示」であることを示す表示はありません。
一方、日本では、TRIPS協定を受けて、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律のもと、「地理的表示に関する表示基準」を定めて、ぶどう酒及び蒸留酒、並びに清酒の保護が図られています。「壱岐」、「球磨」、「琉球」、「薩摩」、「白山」について、国税庁長官が産地の指定を行い保護しています。これらについては、上記の証明の要求を満たすものであると思われます。
しかし、そもそも「地理的表示」に該当する商標であれば、設問3の回答に記したとおり、商標登録を取得しなくとも、その産地に関係の無い商品について第三者が商標登録を取得することができないとされています。万が一、審査をパスして公告されても、異議申立を行うことで拒絶することができるでしょう。
中国で団体商標の出願をする場合、通常の団体商標出願のほかに、「地理的表示」についての団体商標出願を選択することができます。上記設問4の回答のように、「地理的表示」についての団体商標出願を受けられるケースは未だ限定的ですので、通常の団体商標出願において必要とされる書類を説明します。
(1)出願人の署名又は押印済みの願書 (2)出願人の署名又は押印済みの委任状(3)出願人の主体資格証明書 (登記簿謄本など)(4)団体商標の使用管理規則(5)団体組織の構成員の名称及び住所を記した書面
証明商標に関する制度は日本商標法には存在しません。 団体商標は、商品又はサービスがある組織に由来することを示すものです。団体の構成員が使用することができ、当該組織以外の者は使用することができません。一方、証明商標とは、商品又はサービスが一定の品質を有するものであることを表示するものです。出願時に提出された管理規則に定める一定の品質を有する商品又はサービスであれば、だれでも「証明商標使用証」の交付を請求し、交付後、使用することができます。証明商標の出願人は、商品又はサービスが一定の品質を有するかどうかを検査する能力を有する組織であることが必要です。自らが生産し、取り扱う商品又はサービスに当該商標を使用することは禁じられています。
通常の商標出願では、「地名」と「商品の一般名称」からなる商標の場合は、商品の産地とその一般名称を記述するにすぎないため、商標としての顕著な特徴を欠くとして拒絶されます。 しかし、団体商標として出願した場合は、商標法第10条第2項の但し書きが適用されて、拒絶されません(設問1の回答参照)。このため、通常の商標出願では登録を受けることが困難な「地名」と「商品の一般名称」からなる商標の場合は、団体商標の出願をする方が有利であるといえます。